ある時
多分、おそらく、命は共通の原理で繋がれた 無限に連なる一つの空間であろう そしてその命はそれぞれが共有されていて 単体で存在するものは一つもなく、もし何かのきっかけで 一つの小さな命でもこの世に存在していないことになれば この宇宙全体が おそらくは最初から存在していないことになるであろう 従って存在と云う言葉は、単に生を意味するものではなく 死もそれには含まれる 死もまた一つの存在なのである 生から死にその存在が移り変わり、生は死から遣って来る しかし...
満月の滑空
夜はいつも 静かに明ける 時には 懐かしく 時には 希望に満ち 夜はいつも 静かに明ける 時には 悲しみの中に 時には 変わらぬ太陽が街を照らす 天上に輝く月は 尚美しく 無言の銀河の星々は 尚美しく 漆黒の大空を 円を描き 雲を切り 影絵のように飛ぶ鳥の その広げた両の羽に 溢れるばかりの思い出を載せて 海も大地も愛おしく 風のにおいも愛おしく 幾度かの冬が過ぎ 幾度かの春を迎へ 幾度かの夏の盛りの青い葉が 秋の黄色の画を描く時幾千の幾万...
出来なかった
抱きしめてあげればよかった 幼い子供が走りよってきた 友人の葬儀の日 私の楽屋で 酒に震えて笑っていたその人 残された幼い子供は どんな気持で 走りよってきたのだろう 抱きしめてあげればよかった しかし私はしなかったのだ 話しかければよかった ある日 その老人は絶望的にうつむきながら 私の前から歩いてきた 絶望に落ちた顔が 私の横を通り過ぎた あの どうしました、 それでいい ちょっとでいい 話しかければ もしかしたら何かが...