千年の幻想
いく里も続く 蓮の花に 君は眠る 君はその夢から醒めぬがいい 醒めれば 天上を穿つ 鏡の様な月に 多くの枯れた蓮池が 映るのを見るのだから 私は 空にそびえる楼閣に 君を待ちながら 静かな月の夜は 一人琵琶を弾こう 細い柄に張られた 三条の絹糸が 円体の胴を震わせ 流れ出る音霊は 深い夜を通り抜け 山河を渡り 千年の時を隔てた君に届く 君は或る夜 目を醒まし 天上に横たわるオリオンを見つけたら 両の手で 小さな池に凍り付いた 月を掬え 月は溶けながら 幽かな音をたてる もし君がその...
都会の野辺送り
都会の野辺送りはマイクロバスで行く ゆらゆら 揺られながら 揺れる度に 悲しみが零れ落ち 零れ落ちた悲しみは 誰に拾われることもなく アスファルトの隙間から 静かに地面にしみ込んでゆく 聞き耳をたてれば 都会のアスファルトの下には 拾われることのなかった 悲しみが 地下水脈のように ひそひそと 流れているのだ 今日もまた 眩しく輝く太陽の下で 今日もまた ゆっくりと行列は進み 今日もまた 悲しみは何処かに消えてゆく...
1998年 夏の終わりに 於長応寺
空を雲が駆け抜ける そんなに急いで何処に雨を降らしに行くのだろう 流れる綿の様な雲の合間の 今日の青空 昨日も明日もない 今日の青空 此処に住むことなくして 永遠なぞ決して感ずることは出来ない 今日も又 お墓参りの客が一人 曲がった背中に 晩夏の風が やわらかいよ...